YUMEMI PEOPLE Vol.2:皆川康雄さん (NPO法人 WRV神奈川支部)


2018年の春、動物公園サポーター限定の講座がひらかれました。「野生動物リハビリテーター養成講座」です。聞きなれない言葉、一体どんなことをするのでしょう、夢見ヶ崎動物公園との関係は?そこで、今回のYUMEMI PEOPLEでは、野生動物リハビリテーター養成講座の事務局をつとめる皆川さんにお話をうかがいました。

YUMEMI PEOPLE Vol.2:皆川康雄さん (NPO法人 WRV神奈川支部)

皆川康雄さん。獣医師でもあり、NPO法人 WRV(特定非営利活動法人 野生動物救護獣医師協会)神奈川支部の支部長をされています。

手術や治療以外の処置・動物の世話・野生復帰をトータルに支えるのが野生動物リハビリテーター

野生動物リハビリテーター(以下、リハビリテーター)とは、欧米では様々な国で20年以上前から制度化・活動が続くプロボノに近い組織です。WRV神奈川支部は神奈川県の自然環境保全センター・横浜市内の3動物園・川崎市の夢見ヶ崎動物公園と連携した野生動物の保護・救護活動を行っています。また、学校等での環境教育やイベントでの普及啓発・情報発信しています。

元々、獣医師として保護センターで搬送された動物の治療・世話から野生復帰まですべてを担当されていた皆川さん。転機となったのは、2002年にスペインで起きたタンカー沈没事故の際、油汚染水鳥の救護ボランティアとして参加した経験でした。

『「なんで日本は獣医師が来たんだ」って。もう目が点になりましたね。』

日本の獣医師として海外へ派遣されるという誇りを感じつつ活動に参加した皆川さんを迎えた現場の声は予想外のものでした。

皆川さん:獣医師しか自分の頭の中にはないので、「え、じゃあ誰が来るんですか?」と言う感じで。「野生動物リハビリテーターだよ」って。それって何ですか?という…(苦笑)

現場では、獣医師はトリアージ(処置の緊急度を決める作業)や処方を行う、リハビリテーターは処方を受け処置をしたり、世話や野生復帰訓練、放鳥をする…という役割分担がしっかりできていたそうです。だから国際協力で来てほしいのは担当量の多いリハビリテーター…。その経験は皆川さんにとって、野生動物の救護するしくみ自体を考えるきっかけとなります。

皆川さん:カルチャーショックを受けて帰ってきました。その…油汚染の水鳥を救護しに行ったというよりも、「なんていう人たちがいるんだ…!」という気持ちで。

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リハビリテーターによる油汚染水鳥の洗浄の様子/写真提供=野生動物救護獣医師協会

海外では、自治体によって度合いが異なるものの、動物保護関係の職に就くには有利となる資格として認められるなど社会的な地位も持つリハビリテーターの資格。タカなどの猛禽類の世話はトレーニングを積んだ者しか担当できないなどランクも分かれており、レスキューカーという救急車に近い専用車両もあるのだとか!さらには、広報や寄付担当、行政への政策担当などプラスアルファの専門分野を持ち活動している方もいる大きな組織がほとんどだそうです。

海外の制度をそのままを日本にあてはめるのは難しいものの、皆川さんは行動を開始します。2005年に神奈川県と協働で野生動物リハビリテーター資格認定制度を創設し、リハビリテーター養成講座を始めました。2006年からは、横浜市内の動物園での活動が認められるようになりました。また、専門学校のカリキュラムにリハビリテーターが取り上げられたり、動物看護学校の教科書に野生動物救護が加わったり等、様々な影響が生まれてきています。

『「救護活動は獣医師が行うもの」から
「市民が主体的に、獣医師と共に救護活動にあたることができる」へ』

活動を続ける中、皆川さん自身の意識も変わっていったそうです。まちで暮らす市民がトレーニングを積み、救える命が増えること、そしてまた、社会を変えていける可能性があること…リハビリテーターがつなぐ、人とまちと動物の将来のイメージも見えてきました。野生動物の救護で、市民が関われる部分が限定されている現状にも改めて目を向けていきます。

皆川さん:(保護した動物が)野生に返れたのか、もしくは亡くなってしまったのか、そんなことすらも知らせないといいますか。自分のやったことがどう、自然に貢献できたのか、社会に貢献できたのかというのがなんか、わからずじまいで、「施設に持って行った」という事実しか残らない。せっかく、自然保護とか環境保全のきっかけが…シャットアウトで。”

確かに、保護された後は専門職のお仕事という感じがしています。ただ、環境保護ともなると話が大きくて難しい…。私たちは何から始められるのでしょうか?

皆川さん:(野生に返す時には)その動物がこの地でまた生きていけるような環境をみんなでよくしていくからね、元気でね、という願いを込めてるんですけどね。例えば、そこに子供たちがいっしょに放すということで、自分たちも、動物たちを治したとか関わったということで今度はけがさせないようにしようとか、いい環境にしようというそういう気持ちが起こりますよね。

直接ではなくても知ったり手伝ったりすることで、自分以外の生き物や周りの環境に対する興味がもてる…そういう気持ちがまずは大切なことなんですね!

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「リハビリテーターがいることによって、その保護した人あるいは地域の方々との架け橋として、自然保護の大切さを伝えるいい機会になれるかな、と。」

『けがした動物を自分の手で治して野生に返したという、このよろこびはね、
もう今でも忘れないですね。』

これまでの活動の中で嬉しい瞬間は保護した動物が野生復帰できた時だそうです。

皆川さん:たいていは本当に悲しい部分が多いんですよね。やっぱり致命傷が大きいので、なかなか思うようには帰せないな…というのを多く見てきましたので。その中でも野生に帰っていけるという事例をせるようになってきて。その時の喜びは、今でも思い出します。

リハビリテーター活動で、保護対象となるのは、「人の影響により、けがをした可能性のある野生動物」です。例えば、自然に巣から落ちて親が近くに居るヒナは対象になりません(親がちゃんと面倒をみているため)。保護の通報を受ける動物は致命傷を負っているものも多く…、野生復帰できるまでの体力を身に着けるまでには時間がかかります。

皆川さん:これ(保護した動物)を健康体にするのは大変なことなんだっていうのが、自分が世話したことでより重みのある言葉で、伝えていける。そこはねやっぱりリハビリテーターの、すごく強みと言うか、だからこその役割だと思うんですよね。「自然は大事だ、自然は大事だ」って、通り一遍的な口だけなら言えることですけど、でもリハビリテーターは本当にその一つの命を野生に返すだけでもたいへんなんだとわかれば、彼らが生きていける環境を整えてあげたいという気持ちが強くなっていく。

先ほどの環境の話にも共通しますが、リハビリテーターの喜びが、その役割にもつながっていくんですね。皆川さんは、事務局やリハビリテーターに関すること全部取り仕切っているんですよね?

皆川さん:ええ。リハビリテーターの活動が広がっていくと、いろんなところへ出て行って、環境教育とかイベントとかが(必要になってきた)。ずっと(保護)センターに留まっていることができなくなったということもあって、今のスタイルになって。それぐらい、リハビリテーターの活動範囲が広くなってきたという、喜ばしいことではありますけどね。

「けどね」とは…?

皆川さん:自分がリハビリテーター制度をつくってなかったら、自分が今でも(治療の現場で)できたな…と後悔ではないんですけど(笑)。

現場も大切に思うからこその、ジレンマですね…。とはいえ、今の立場になっての喜びもあるそうです。

皆川さん:自分が治して返すというのは、自分だけの出来事ですからね。リハビリテーター活動というのは、それをみんなで共有してもっと広げていこうという、そういう喜び。全然質が違う。そのことによって野生動物が暮らしやすくなっていく、あるいは人と共存できていく、っていうのが目指せる。そこはまた、大きな喜びです。

活動を共有する中で、輪が広がっていく。そうした喜びは、今の活動ならではですね…!

YUMEMI PEOPLE Vol.2:皆川康雄さん (NPO法人 WRV神奈川支部)

リハビリテーターが活動している様子

『(夢見ヶ崎動物公園は)物理的にも感覚的にも市民と密着している動物園』

これまで、リハビリテーターのお話を色々うかがってきました。でもなぜ夢見ヶ崎動物公園なのでしょうか?

皆川さん:政令都市でそれなりの規模の動物園であるにもかかわらず、園周囲にフェンス等の柵がなく、昼夜を問わず、いつでも市民に開放されている動物園は他にはありません。

そして、動物公園の飼育員さんに気軽に話しかけられる、園長さんに気軽に会えるという環境は都市部の動物園ではなかなかない環境だそうです!確かにインフォメーションの方ではなく、直接飼育員さんにお話できる雰囲気は夢見ヶ崎ならでは、ですね。

さらに皆川さんの声に力がこもるのは、(神社仏閣の境内は除く)加瀬山全体が「鳥獣保護区」に指定されているという部分。これは、全国でもとても珍しい事象だそうです。

皆川さん:(一般的に)動物園はさすがに重ならない。それだけ、森に囲まれて、融合しているというか、区別が付けられないということですね。

さらに、多くの鳥への意外な恩恵もありました。

皆川さん:渡り鳥の中間拠点(休憩地点)なんです。だからここは職員さんとうまく一緒にやりたいなと思っているんですけど。ここでこういう鳥が観察されたの?!という事例が結構あります。

カッコウ類やムシクイ類、ヒタキ類など、本来なら見られない鳥類が渡りの途中に、羽を休めに立ち寄るのだそうです。間接的に、他の地域に住む鳥の助けにもなっている場なんですね。

『ここ(夢見ヶ崎動物公園)でけがした動物を、
野生復帰させる・放すのは鳥獣保護区ではなすということなので、そういう観点からも意義はある』

今回、サポーター向けに行われたリハビリテーター養成講座は、活動場所を夢見ヶ崎動物公園中心としています。各地の動物園でサポーター制度が導入される中、多いのは、いわゆる寄付や動物紹介。(園内の展示動物ではない)けがをした動物を直接世話するサポーターを導入したのは全国に先駆けて初のことだそうです!

野生動物を保護する機能があり、鳥獣保護区であり、感覚的にも市民に近い場所でもある、とさまざまな要素が重なる夢見ヶ崎動物公園だからこそ、できることなんですね。

皆川さん:加瀬山は川崎市の市街地の中心部である幸区・川崎区において、多摩川エリアを除くと唯一鳥獣保護区に指定されたエリアです。ですから、加瀬山を守らずして身近に生息する野生動物との共存はあり得ないと言っても過言ではないのです。それくらい貴重なエリアであると言えます。
皆川さん:「この地で野生動物リハビリテーターが活躍しないでどうするの!」ということです。

加瀬山があること自体が環境としても重要ということですね。
再開発が進みつつあるエリアでもありますが、そうした流れのある中での加瀬山の価値についてはどう思われているのでしょうか。

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皆川さん:周りが都市化していく中で、貴重な森林がますます貴重になっていく…。そうすると、そこが、暮らしてる方の自然との接する唯一の場所になってくる。それは貴重な機会になるので、自然の大切さをその場所でどう展開していくかになってきますね。
だから、ここにいるリハビリテーターが、いつでもいて、ここを訪れる方には何かしら話を提供できるようになる。そんなスタイルを、常にそういう(訪れる)人たちに話しかけていくというんですかね、伝えかけていく。

うかがっていると、これからの夢見ヶ崎動物公園に集う人々と野生動物リハビリテーターの方が、動物や自然の話を気軽にできる…そんな光景がうかぶようです。それは、皆川さんの思い描くこれからの姿でもあります。

皆川さん:もちろん、イベント的な部分もあってしかるべきだと思いますけどね。リハビリテーターとしては、日々、この拠点に活動しているということがベースにあることによって、いろんなことができるようになっていく。

自分以外の命ある生き物の暮らしや環境…興味や意識を深めることをはじめ、活動の可能性は広い、ということですね。同じ地域で生きるのは人も動物も共通していますね。これから自分が何をしていけるのか、新しい視点で考えるきっかけとなりました。

さいごにひとつ。夢見ヶ崎動物公園へのリクエストをいただきました。

『完全に鳥目線でいくとここにもう1個あったらなあと思うのは…』

それは池のような「水場」。動物公園内の厩舎にも外の水道でスズメやハトが水浴びをしている姿を見かけますが、それは街や他の動物に慣れているからできるのだそう。多くの野鳥は、警戒心も強く、なかなか近寄ることができないそうです。野鳥の視点からの加瀬山へのリクエスト、さすが専門家です!

皆川さん、ありがとうございました!

YUMEMI PEOPLE Vol.2:皆川康雄さん (NPO法人 WRV神奈川支部)

WRV神奈川支部や野生動物リハビリテーターの活動に興味のあるかたは、ぜひ問い合わせてみてください。講義、実習からなるリハビリテーター養成講座は年1回行なっています。リハビリテーターは、20代の学生さんから子育てを終えた年代の方など幅広い年代の方が活動しているそうです。今は女性が多いそうですが、今後は色々な方が増えていくことを期待!ですね。

(写真=石井秀幸、取材・文=石井麗子)

皆川康雄(みながわやすお)

NPO法人WRV神奈川支部長、東京環境工科専門学校特任教員。1967年横浜市生まれ。獣医師。麻布大学獣医学科卒。横浜市立野毛山動物園、野生動物ボランティアセンター(川崎市中原区)等を経て、現在に至る。主な著書(共著)に『野生動物救護ハンドブック』(文永堂出版)、『動物看護学各論 動物看護師のための野生動物救護』(日本動物看護学会編)等がある。

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