YUMEMI PEOPLE Vol.3:村木芳夫さん (夢見ヶ崎動物公園園長)

YUMEMI PEOPLE Vol.3:村木芳夫さん (夢見ヶ崎動物公園園長)

マーコールの獣舎前で

2018年、春。夢見ヶ崎動物公園に新しい園長が着任しました。獣医師の村木芳夫さんです。フレッシュな視点で動物公園を見つめる村木園長に、これまでの道のりや加瀬山のこれからについてお聞きしました。

園長という仕事は、動物と毎日向き合っていろいろできるのかなあ、と思っていた

動物との密な関わりを想像して夢見ヶ崎動物公園にやって来た村木さん。予想に反して会議出席や調整が最も多いそうです。園長はいわゆる管理職にあたるためそういった業務が多いのは通常だそうですが…。

村木さん:庶務的な話から何かを購入したり予算を執行するにあたって書類をみて決裁をしたり、職員の休暇とかローテーションとか、あと時間外勤務した手当とか全部決裁しなきゃいけないので、それがちょっと100件弱くらい。

さらりとおっしゃいましたが、1日100件?!なかなか机から離れられませんね。

村木さん:初めてなのでこういう職場…。365日体制というのは。今まではカレンダー通りの勤務だったので。私も私の下に居る職員もみんな一斉に休んで一斉に仕事してっていう職場だったのが、私が休んでても職員は仕事してるし、その逆もありで。まあ、全然違う世界に飛び込んだという感じ。

そうでした、夢見ヶ崎動物公園は年中無休でひらいている珍しい動物公園。勤務のリズムにも慣れないといけませんね。これだけ出かけたり庶務が多かったりすると、飼育員や獣医の方と動物の様子を見たりするタイミングはあるのでしょうか…?

村木さん:ほぼ…ないですね(笑)。夜なんかに手術をするということもあるんですけど、そういう時身体が空いていれば行ったりします。いちおう獣医なんで。「一応」とか「なんちゃって」とか頭につけないといけない獣医ですが…。

1時間の会議に出席でも半日くらいつぶれてしまうなど、なかなか事務所にもいられずもどかしい気持ちもあるのだそうです。

ところで、行政機関に所属する獣医さんのお仕事はどんなものがあるのでしょうか?ざっくりと教えていただきました。

川崎市では一般的に獣医として勤務するのは区役所の中の保健所が多いそうです。その他は、動物愛護センター、健康安全研究所や市場の食品衛生検査所といった検査などを行う部署。主要な業務は、(1) 許認可(開店や営業の許可をすること)、(2)ペットの登録や苦情対応と言った動物愛護関係、(3) 感染症対策だそうです。
許認可の対象は、飲食店だけでなく、銭湯・美容室・クリーニング屋さんなど衛生を確保する必要がある場所(環境営業と呼ばれます)や、映画館やコンサートホールなど人を多く集めるところ(興行場と言うそう)も!

動物や人に直接関係することだけでなく、広い視野で街の公衆衛生自体を保っていくことも含む、幅広いお仕事なんですね。

YUMEMI PEOPLE Vol.3:村木芳夫さん (夢見ヶ崎動物公園園長)

すごい親しみのある公園で、動物も好きだったので「じゃあ動物に関する仕事」って感じで

時は少し遡ります。村木さんが獣医を意識した高校2年生の頃のこと。将来なにができるかを考えたとき、ふと頭にうかんだのは、小さい頃に遊んでた地元の動物公園だったそうです。

村木さん:池に併設したところを公園として整備したところで、そこの池が白鳥・黒鳥・ペリカンとかを飼っていて、あとはすこし遊園地的な、ジェットコースターとかもあって。今は立派な動物園という位置づけですけど、まだその頃は公園の中の動物コーナーでサルがいた。よく連れて行ってもらっていたし、こども会のキャンプをしたり…。すごい親しみのある公園で、動物も好きだったので、じゃあ動物に関する仕事って感じで。獣医って私の学力でなれるのかしらって、やったらなれそうなんでじゃあ獣医って。単純に(笑)。

身近で親しみのある動物公園と、そこでの思い出が村木さんを獣医の道へ後押しました (やったらなれそうだ、と獣医になれるのもすごいですが…!)。その動物公園は、村木さんが大学生のころ、「カッタくん」という名のペリカンが大人気になり、近所の幼稚園児と共に遊ぶなどニュースにもなったそうです。
上京後、大学では実習等で、動物園・動物病院とはまた異なる動物との関わりを経験し…。

村木さん:ショックでしたけど「貴重な命をいただいているので立派な獣医にならなきゃ」とまでは思えませんでしたね…若いので、はい…。役所に入ってからそれを思い出して。『動物たちの命の上に成り立っているんだからちゃんと獣医として仕事もらった以上は、仕事しないといけないなあ』と思いました。

誠実な人柄が伝わります。獣医師として市役所に勤務し、様々な部署を経験する村木さん。その中でも、最もインパクトを受けたのは新型インフルエンザが発生したときでした。

「実際起きたらこういう風に行動して下さい」と教えていたのが、現場の最前線!

村木さん:平成21年の4月の終わりからではじめた記憶があるんですが、その直前の3月いっぱいまで新型インフルエンザの対策を本庁で「いざ起きたらどうする」みたいな対策を作る側にいたんですね。外国でも、その当時発生していて、でも日本には入ってきていなくてという感じだったので。いつかは入る、という設定ではいましたけど、こんなに早く入ってくると思わなかったので…。本当に発生して日本に!という感じですね。本当に致死率高かったら役所の人間もバタバタ倒れて・・・という想定もしてましたけど、そこまでいかなかった。

YUMEMI PEOPLE Vol.3:村木芳夫さん (夢見ヶ崎動物公園園長)

対策を作る側として考えていたことが、実は現実に則していなかったことなど、多くのことも学んだそうです。当時、ニュースで川崎市内の高校生も発症が確認された時も、まさに村木さんたちが動いていたのですね…!起こるかもしれない未曽有の事態への対策を考える管理的な場もそれを実際に行う現場も、両方を経験されているのは村木さんの強みでもあるように感じました。

村木さん:全体像が頭の中に入っているので、一部の現場のこういう動きがこういうながれにつながっているというのが分かるので動きやすかったといえば動きやすかったですね。保健所の担当の人はたいへんだったですけど…。

こうしてうかがっていくと、村木さんのこれまでのお仕事と今の園長のお仕事はだいぶ違いますね…。

村木さん:まさにそこで!今までの仕事としていうと、外で「規制する」行政しかやっていないんですね。法律に基づいて、ここまでしかやっちゃいけませんよ、ここまでやると違反ですよ、と。それで公衆衛生を維持するという。外に向かって積極的にコラボしていくということはあまりない。(役所内でも)一部はあるんですが…でも、ここではそれがわりと園長としてメインになってくる。

夢見ヶ崎動物公園の関わりしろが増えたのは、いままでの園長のお手柄です

市民がこれまで以上に関わりやすくなったのは、岩瀬前園長のおかげが大きい、と話す村木さん。夢見ヶ崎に来てから、いろいろなことに気づいたそうです。

村木さん:岩瀬園長の時にサポーター制度が立ち上がって、、。それまでは個人的にバラバラと勇気をもって訪れた方だけに対応していたのを、門戸を広げたという流れですね。

まだ1年経ってないので、動物園の1年間を見れていないんですけど…、 「かなり地域の方に支えてもらって成り立ってる」ということがわかってきましたし、まだ足りない…とか、こんなのできそうじゃないかな、とかアイデアも少しずつわいてきました。

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2018年春の動物園まつりではサポーターが始めて動物クイズコーナーを担当した

コラボレーションの可能性と意欲を明るく語ってくださいました。加瀬山ならではの可能性についてはどう思われますか?

村木さん:入園無料なので、ほんとに地元の方が生活道路としても使われますし、朝の散歩コースになってますし、近所のこどもたちのトレーニングの場にもなってますし。色んな使われ方をしていて、塀で囲って入園・退園を制御できるような動物園ではないので、かえってそれが「いろんな時間に使えるという魅力」を生み出しているんですね。

かっこよくいうと色んな世代の方が集まる、多世代混在の場。色んな方が時間を変えて訪れますよね。日中に自然を求めて木陰のベンチで座ってたり、お弁当食べたり、こどもたちはこどもたちでボールを投げたり蹴ったりして。一番多いのは小さなお子さん連れのお母さんだったりするんですけども。いろんな年代の人が、夢見ヶ崎動物公園というエリアに集まっている、それぞれ(居る)場所は少しずつずれていたりするんですけど。そこの世代間交流というのができないかな?というのはあるんです。

来ている方同士の交流ができたら、親しみもより強まりそうですね。
また、野草や、昆虫なども、気を配ってみるとちょっと珍しい発見に満ちていることも魅力!と力説してくださいました。野草にも詳しい村木さんのお勧めは、「ウラシマソウ (ツルがピュッと出て浦島太郎の持つ釣りざおに似ているからウラシマソウなんですって)」!。さらに、前回の記事でも紹介したように野鳥も訪れる鳥獣保護区であること、加瀬山には様々な環境の可能性があると教えていただきました。聞いているとわくわくして、加瀬山を歩きたくなってきます。

昔の駄菓子屋のおばちゃん的な親しみやすさで すぐ出てきます

村木さんのお話からは、新鮮な目線で加瀬山をみつめ、楽しんでいることも伝わってきます。これから、こうなったらいいなという加瀬山の未来像はありますか?

村木さん:ここの方向性とか色んな世代が交流できる場になったら良いなという思い、自然とか歴史とかいろんな可能性を持っている場所なので、それを活用して市民の方にもっと楽しんでいただける動物園にしたいな、というのと。
動物園にきたこどもたちが将来の職業にするというのもかっこよくていいんですけど…子供のころにこんな動物園があって、こんな遊びをして、こんなふざけた園長がいて…とか話題に上って、「なんかにくめない奴なんだよ」みたいに話してもらえたらいいな。

村木さんにとって故郷の動物公園が親しみ深かったように、ここも住む人にとってそうなったら嬉しい…、ほんわかとした優しさを感じる言葉です。

楽な職場じゃなくて苦しんだりもしますけど、ご褒美のような夢のような職場

YUMEMI PEOPLE Vol.3:村木芳夫さん (夢見ヶ崎動物公園園長)

園長になってからの数か月、今のお気持ちを改めてうかがいました。

村木さん:もう一生動物(に直接関わる仕事)はできないんだろうなと思って仕事をしていた。でも、ある日突然動物園勤務というのが出てきて。人間何が起こるかわからないなというのと、それなりに一生懸命働いていれば神様がご褒美くれるんだな

インタビューしているこちらも嬉しくなるような言葉です!最後に、村木さんから子どもたちへお誘いメッセージです。

村木さん:せっかく近所にこういうところがあるなら、勉強の息抜きにでもいいからちょっと来てみなさいよ。友達とゲームするのも楽しいかもしれないけれど、想定外の面白いことが、この日起こらなくてもそのうち起こるから、それを楽しみに来てみたら?と。ぜひ。「動物、とりあえず見てみない?」というとこですかね。

かるい誘い方がいいですね(笑)。
ちなみに、村木さんは、出張で不在でなければ「すぐ出てきます」とのこと。
気軽にお声をかけても良いそうですよ。園長さんに気軽にあいさつできる動物公園、これもまた夢見ヶ崎の魅力のひとつなのかも…!
村木さん、ありがとうございました!

(写真=石井秀幸、取材・文=石井麗子)

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