マーコール

マーコールは野生のヤギの王様っていう意味なんだ。
大きいツノがあるのがオス、小さいツノがあるのがメス。

英名:Markhor
学名:Capra falconeri
分類:脊索動物門 > 哺乳綱 > 鯨偶蹄目 > ウシ科 > ヤギ属

原産地など

ヒマラヤ山脈からその西側に連なる山岳地帯の森に群れで住んでいます。オスにはコルクの栓抜き状に曲がった巨大な角がありますが、メスは小さな角です。
マーコールは、野生ヤギの中では最大の体格を持っており、家畜ヤギの原種の一つになっていると考えられています。

普段は穏やかな性質ですが、時々、マーコール同士で角と角を突き合わせる姿が見られます。ウシ科の動物は、一部の家畜種を除き原則、オスメス共に角が生えます。角の内部には骨の芯があり、シカ科の動物とは違い、毎年生え替わることはなく、生涯伸び続けます。

マーコールのメスの角はオスの角ほど大きく丈夫ではないため、角突きなどで角が折れたり、欠けたり、その結果、いびつに伸びたりすることがあります。
角の伸び方や折れ方が個体ごとに異なるため、個体を識別する際の目印になります。

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VOL.71 獣医の日記

群れでうまくやっていけず、隔離してラマ舎の前室で姿を見せていたマーコールのゴハンが残念ながら年明けに死亡しました。 最初に診察したのはまだ赤ちゃんのような顔をした生後4か月、左耳に膿がたまってパンパンになってしまった時です。治療が長引き、治った後も左耳が曲がって少し垂れた状態になってしまいました。その後も原因不明の起立不能や目のケガなど、色々あってなかなか群れに長期間戻すことができなかったため、元気になっていざ群れに戻すと最初は他の個体に対して強気に振舞っていたものの、本当に力も気も強い個体たちにはそれが通じず、だんだん逃げ腰になってしまった結果、群れと離して飼育せざるを得なくなってしまったという経緯があります。発育不良で同じ年齢の個体より二回りは体が小さかったのも原因かもしれません。そんな性格なので隔離するとしょぼくれるどころか飼育担当には持ち前の内弁慶を発揮し、死亡する数日前まで変わったこともなく元気に過ごしていました。 どの動物に対しても変わらぬ心構えでの診療を心掛けているのはもちろんのことではあるのですが、獣医にも飼育担当にもずいぶん濃い思い出をたくさん残してくれた個体だったなと思いながらカルテを読み返しています。

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VOL.67 獣医の日記

11 月の末、今年生まれのマーコールの子どもが群れの成獣とのトラブルで足を骨折してしまいました。骨折は部位や程度によっては自然治癒することもありますが、今回は左前肢、ヒトでいうと肘と手首の間の橈骨と尺骨という2本の骨が完全に折れ、しかもかなりずれてしまったので外科手術に踏み切りました。 手術は骨折で離れてしまった骨同士をもとの形に戻し、金属製のプレートとワイヤーを使い、その形のまま動かないよう固定します。それだけでは不十分なので包帯や金属製の板などで足の外側からも固定しました。そして安静にしてくれていればよいのですが、言い聞かせたところで言葉は通じないので、暴れないようなるべく刺激を与えず、清掃給餌の仕方にも気を使いました。 若い個体の自然治癒力の高さはこれまでもしばしば目にしてきてよくわかっていたつもりでしたが、入院させたバックヤードの個室でもしばしばひとりで跳ね回っており、これでよく骨がくっついたな…というのが正直な感想です。 1ヶ月半ほどですっかり良くなり退院はできたものの、その間群れから離れていたためよそ者扱いされ追いまわされてしまったので、今はマーコール舎の寝室からお見合いをしており、段階を踏んで群れに戻していきたいところです。

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VOL.65 マーコール

生まれてまもなく左後肢の血行障害を患い断脚、その後何度か手術や長い療養期間を経て群れにもなじんでいたマーコールのシオリですが、ある時から群れの中でしばしば攻撃を受けるようになってしまいました。群れで暮らす動物は、群れ全体を危険にさらしかねない、弱い個体を排除しようとします。ニンゲンはひどい、とかかわいそう、といいますが、自然界では当然のことです。最初はうまく逃げていたのですが、だんだん攻撃の頻度が上がり、群れの中で生きるのが困難になったため、離れたところで個別に飼育を始めました。本人には今の環境が合っているようで、リラックスしてけづやも良くなり、元気食欲良好です。三本足なのでそれぞれの蹄にかかる力が四本足の個体と違うのと、山を上り下りしないので蹄が削れず、時々削蹄をしています。時々こどもに間違えられますが、4歳の立派な成獣です。 天気の良い日はラマ舎の扉の向こう側でくつろいでいる姿が見えるかもしれません。

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VOL.63 ピックアップ動物

ヒマラヤ山脈を中心とした中央アジアの高山に群れで生息します。 毎年晩秋から冬にかけて繁殖期を迎え、オス同士はスパーリングで力比べを行い、その年一番強いオスがメスを独占します。今年はこれまで5年間にわたりボスの座に君臨していたイワンが死亡し、同じくらいの体格の若いオスたちによる混戦だったのですが、ひとまずゲンゴロウ(5歳)がボスの座に着きました。他のオスを激しくけん制しながらメスを追いまわし、オスは皆ゲンゴロウを恐れながら過ごしていたある夜、ゲンゴロウが他の若いオスとのスパーリングで負傷するアクシデントが。翌朝にはゲンゴロウは完全にボスの座から陥落し、ゲンゴロウに勝ったオスだけでなく関係ないオスたちまで今がチャンスとばかりメスを追いかけ始め大混乱となりました。下剋上ともいえるこの事態、そうよく見られるようなものではなく、フィクションであれば面白い波乱の展開ですが、現実ではマーコールの命にかかわったり、職員が巻き込まれたりすることもあるため気が抜けません。

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VOL.55 ありがとう

マーコールの♂、ウタマルも 11 月 20 日に亡くなりました。2015 年にはボスとして君臨し、その座を明け渡した以降も弱ることなくマイペースにそこそこの強さと余裕を見せていましたが、この秋は急激に年を取ったようにみえていたところでした。お客さんとの距離は近くなかったものの、職員の間では大きな存在感を放つ存在でした。今までありがとう。

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VOL.53 すっきりしました

今年は5月に急に暑くなったと思ったら、6月7月と梅雨寒が続いていますが、季節は確実に移り変わっており、動物たちも冬毛から夏毛へと換毛しています。 冬毛と夏毛で色や模様がすっかり変わってしまうのはホンシュウジカ。くすんだ焦げ茶色から、オレンジがかった茶色の毛に木漏れ日を思わせる白い斑点模様へと変身しますが、どちらもその季節において森林では目立たない色合いです。 夢見ヶ崎動物公園にいる他の多くの動物たちの換毛は、ふわふわしたダウンコートが抜け、全体的にすっきりした印象になります。ホンドタヌキのげんまいはまさにその典型で、夏と冬では別の動物のようなシルエットです。 キツネザルたちは特に尾がスッキリ、細く見えます。レッサーパンダに至ってはみすぼらしく見えるほど尾が細くなります。 ヤギたちは木の柵や職員手作りの網に体をこすりつけ、抜け毛を自分で落とします。オスのヤギやマーコールは自分の角が届く範囲をわかっているようで、角の先端で背中を掻いていることもしばしばです。 色も体の大きさもあまり変わらないものの、顔周りで大きな変化があるのがロバで、冬毛の時だけ、立派な前髪が現れます。 冬の姿と比べてみると、ほかにもまだまだ発見があるかもしれませんね。

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VOL.50 獣医の日記

現在脚の治療をしているマーコールの子どもがおり、親子で室内に隔離されています。 5 月に生まれ、元気に育っているように見えたのですが、6 月に左の後肢を引きずり始めました。ジャンプなどで痛めたのと少し様子が異なります。骨に異常はなく、炎症を抑える薬なども効かず、原因は不明ですが、踵から下の血流が止まっていることがわかりました。血液の行かなくなった組織は死んでいき、元には戻りません。そのままにしておくと全身に影響が出る恐れもあります。命を助けるなら、足を切り離すしかありません。 3 本足になったマーコールが動物園の中でとはいえ生きていけるのか?犬や猫では手術で3本足になることはそこまで珍しくなく、術後も健やかに過ごせますが、マーコールは山を飛び跳ねます。じっくり議論したいところですが、話し合っている時間が長くなれば本人の状態はどんどん悪くなります。短い時間で検討し、若くて体重の少ない今なら残った3本足でも耐え、適応して生きていけると考え、足の切断手術に踏み切りました。 はたして、手術翌日にはしっかり3本足で立ち上がって走り出し、今ではジャンプもします。まだ治療は続いており、外に出られるまで少し時間がかかりそうですが、ゆっくり見守りながら慣らしていくことで適応できるのではないかと思います。

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VOL.49 獣医の日記 

5月に元気なマーコールの子どもたちがたくさん生まれました。3日連続でポコポコ生まれる日があるなど、今年は同時に集中して生まれた印象です。残念ながら生まれて間もなく死んでしまった子もいますが、現在7頭がすくすく育っています。 その中の1頭が現在足の治療のため、母親と一緒に隔離されています(詳しくはまたそのうち書きたいと思います)。治療を開始したころは毎日、今でも数日に一度、数十メートル離れた病院へ連れて行くのですが、「処置が数分で終わり、すぐに再会できる」ことが、母親も子どももわかりません。毎回毎回、治療される子どもは本気で逃げ回り、母親は子どもが獣医たちに抱えられた瞬間から鳴き始めます。この声がとにかく切ない叫び声で、個人的には後ろ髪を引かれるような思いにもなります。処置が終わって獣舎に戻しに行くと、遠くから悲しい鳴き声が聞こえてきて、扉を開けると立ち上がって待っていることもあって、思わず「ごめんねぇ…」と声をかけてしまいます。 一方の子どもは、抱かれたとたんにすべてをあきらめたかのようにピタッとおとなしくなり、治療中も一切騒ぎません。母親との温度差に最初はこちらも不安になりましたが、処置を終えて獣舎に戻る道すがら、母親の声が聞こえ始めると反応してグネグネ動きだすので、そのたびに、我慢しなくてもいいよう早く治ろうね…と思います。

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VOL.47 獣医の日記

11月から1月にかけて激しくみられるマーコールの繁殖期の闘争がやっと落ち着いてきました。この時期、発情したメスが現れると、オスは餌も食べずに一日中メスを追いかけまわします。生きるための最低限の欲求のなかで、性欲に完全に支配された状況だというのが見ていてよくわかります。群れの中で強いオスだけが子孫を残す世界なので、弱いオスがちゃっかりメスに近づけば、強いオスはものすごい勢いで追い払いにかかります。それ以前に、繁殖期の前半でそのシーズンの順位付けの闘争が行われ、一番になれなかったオスは後半おとなしくしていることが多くなります。今回、7歳のオス・エルがその前半戦でおそらく山から転落し、足を骨折してしまいました。人間でいえば踵から先の部分で、比較的直りやすい部位ではあるのですが、100kg近い体重を支えながら動き回られてはくっつくものもくっつきません。空気銃で麻酔を打ち、手作りの副木を骨折部分に当て、ギプス用の包帯でぐるぐる巻きにすること1か月半。実はマーコールの骨折の診察は初めてだったので、うまくいくかドキドキしながら毎日診ていましたが、なんとか骨がくっついてくれました。もう少ししたら外に出られます。診療の機会は何度もありますが、何度目でもうまく治るとやっぱりうれしいものです。

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VOL.46 マーコールのスパーリングはじまりました

マーコールの繁殖期が始まりました。オスどうしがメスをめぐって、角を当てあう乾いた音がしばしば聞こえるようになります。角を当てるというと優しく聞こえますが、実際は、立ち上がって体重を乗せた上からの頭突きを、下にいる方が力いっぱい受け止める、迫力満点の闘いです。どちらかのタイミングがずれればどちらもただでは済まないので、「どちらが上でどちらが下をとるか」をお互い的確に察知して役割をこなしているように見え、プロレスのようです。もちろん、逃げればそのシーズンはボス争いから退場したとみなされます。 よく見ていると普段の立ち居振る舞いも1頭1頭個性があり、今年は誰がボスになるのかこれを書いている時点ではわからないものの、その戦局を見守る日々です。 ちなみに、この時期にしか味わえないのがきつくなってくるオスの体臭(と尿のにおい)です。これはなかなか言葉では表せないので、ぜひ近くで本物を皆さんにも体験してほしいと思います。

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VOL.44 ごはんです

昨年11月、生まれて半年のマーコールの子(愛称:ゴハン)がしばらく病院で入院生活を送ることに。やがて元気になったのですが、4ヶ月群れから離れていたブランクは大きく、うまく群れに戻っていくことができませんでした。最初のうちは人がリードをつけて一緒に群れの中をお散歩してみたところ、とても強気なのでためしにリードを外してみたら、急に弱気になって他の個体から追いかけられてしまったり。少しずつ段階を踏んで、ようやく群れの中で餌も食べられるようになってきました。今でも人を見ると鳴きながらトコトコ歩いて来てしまうことがありますが、あえて突き放して陰から見守っているところです。もうきっと君なら大丈夫、がんばれ!

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