ホンシュウジカ

こどもの時はバンビって呼ばれてるよ。
りっぱなツノがあるのがオスで、1年で生え変わるんだ。

英名:Sika Deer
学名:Cervus nippon centralis
分類:脊索動物門 > 哺乳綱 > 鯨偶蹄目 > シカ科

日本で昔から親しまれてきたシカ

ホンシュウジカは、本州に住んでいるニホンジカの仲間です。奈良公園にいるシカも、この仲間なんですよ。日本では古くから神様の使いとして大切にされてきた地域もあります。

ニホンジカはもともと、日本だけでなく、ロシアのシベリア、中国、朝鮮半島、台湾、ベトナムにも住んでいました。今ではイギリスやアメリカなど、世界中のいろいろな国にも連れていかれて暮らしています。

どんな姿をしているの?

中くらいの大きさのシカです。体の長さは95センチから180センチくらい。肩までの高さは64センチから109センチくらいあります。オスはメスよりも少し大きくなります。

毛の色は季節によってちがいます。夏は茶色っぽい色で、背中から脇腹にかけて7列から8列の白い水玉もようがならんでいます。この模様は「鹿の子模様(かのこもよう)」といいます。冬になると毛は灰色がかった茶色になり、水玉模様はあまり目立たなくなります。

背中のまんなかには、頭からおしりにかけてこげ茶色の線がはいっています。おしりには白い毛が生えていて、危険を感じるとこの毛を立ち上げて仲間に知らせます。

オスの角

オスには枝分かれした角があります。角の長さは30センチから66センチくらい。この角は毎年5月ごろに抜け落ちて、新しい角が生えはじめます。8月までの約130日間かけて成長して、9月にはかたくなります。おもしろいことに、年をとったシカのほうが先に角が抜け落ちるんです。

どこに住んでいるの?

森の中、とくに下草がたくさん生えている場所が大好きです。でも草地やしっとりした湿地など、いろいろな環境にも上手に適応できます。

海辺の低い場所から標高1800メートルの高い山まで暮らしています。夏と冬では住む場所を変えることもあって、雪の量や植物の育ち具合によって山の上と下を行き来します。

何を食べるの?

草食動物です。草や落ち葉、木の葉、木の皮、タケ、シダ、果物、キノコなど、いろいろなものを食べます。食べ物が少ない季節には、その場所にあるものを上手に選んで食べることができます。

どんな生活をしているの?

おもに夜に活動します。オスはふだん一人で暮らしていますが、ときには何頭かで集まることもあります。メスと子どもは、出産の季節には2〜3頭で小さなグループを作ります。

いろいろな声を出して仲間とコミュニケーションをとります。メス同士は優しい口笛のような声、メスと子どもはヤギのような声でやりとりします。オスは繁殖期に大きな声で鳴きます。危険を感じたときは、するどい声や高い笛のような声で周りに知らせます。

繁殖

繁殖期は秋の9月から10月ごろです。この時期、オスは自分のなわばりを角や前足で地面に穴をほって印をつけます。強いオスは最大12頭ものメスを集めることがあります。繁殖期のオスはほとんど食べないので、体重の2割から3割くらいやせてしまいます。

メスは約30週間、つまり7ヶ月くらいおなかの中で赤ちゃんを育てます。5月から6月ごろに1頭の赤ちゃんが生まれます。生まれたばかりの赤ちゃんの体重は4.5キロから7キロくらい。お母さんのおっぱいを飲んで、10ヶ月くらいかけて大きくなります。

絶滅の心配は?

IUCNという自然を守るグループは、ニホンジカを「低懸念」として評価しています。これは「今のところ絶滅の心配は少ない」という意味です。

日本では、オオカミがいなくなったことや狩りをする人がへったことなどで、むしろ数がふえすぎて問題になっています。2015年の調査では日本全国で約308万頭もいると推定されています。農作物や森の木を食べてしまう被害がふえているため、数を調整する取り組みが行われています。

出典

  1. Wild Watch Japan. Honshu Sika Deer. Retrieved from: https://wildwatch-japan.com/honshu-sika-deer
  2. Animal Diversity Web (ADW). Cervus nippon. Retrieved from: https://animaldiversity.org/accounts/Cervus_nippon/
  3. IUCN Red List. Cervus nippon. Retrieved from: https://www.iucnredlist.org/species/41788/22155877

公式情報『ゆめみにゅーす』の紹介

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VOL.66 獣医の日記

動物園動物はヒトを見慣れており、野生動物と比べればヒトに慣れてはいます。時々勘違いされるのですが、「慣れている」だけであって「懐いている」というわけではありません。動物種、年齢によって多少異なり、個体差もありますが、見かけただけでは逃げない、餌をねだる、ということはあっても、家畜種ではない動物がヒトに身を任せたりまったく警戒せず弱みを見せたりすることはかなり稀なケースです。 先日、急に群れから距離を置き始めたホンシュウジカが 1 頭いました。群れから離れるというのは、群れから追われかねない理由がある、すなわち体調不良のサインであることがしばしばあります。私たちもすぐその個体をマークし、検査や治療も始めました。が、数日たたないうちに残念ながら死亡してしまいました。子宮に膿がたまり、腎不全も起こしていました。死亡するほんの 30 分前にはしっかり立って餌のニオイを嗅ぐ仕草も見せており、あたかも急死したように見えますが、そこはヒトに弱みを見せない動物です。ギリギリまで不調を隠していた可能性も大いにあります。 相手は弱みを隠すものという前提で、日頃の細やかな観察と引っ掛かるものに敏感である感受性、それらを鍛えるためなんでもない時の動物たちの観察などが、簡単なようで一番難しく、重要なことを痛感させられます。

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VOL.63 獣医の日記

秋から冬に繁殖期を迎えるホンシュウジカはオス同士スパーリングを行い互いの力量を測るのですが、しばしば弱いオスが強いオスに追われることがあります。追われるようになった個体は気弱になり、何もなくても逃げ腰になってしまいます。野生では弱さを見せるような個体が群れに存在すると、群れ全体を危険にさらすこともあることがあり、それゆえか逃げ腰のオスは若い個体やメスからも攻撃され、群れから離れたところにぽつんといることが多くなります。 逃げて走り回ることが多いからか、ある時そんな個体の蹄の裏が擦れてしまいました。化膿しないよう投薬し、同時に傷ついた蹄の処置を行う、それも長期戦になるのでシカと職員お互いなるべく負担が少ない方法で…といろいろ試していった結果、大きなバケツに薬入りの餌を入れ、シカ自ら頭を突っ込んで食べてもらっている間にこっそり患部の処置をするという方法に落ち着きました。大きなバケツを被ったような形になるので周囲が見えず不安になるかと思いきや、かえって周りを気にせず餌に集中できるのがこの個体にはよかったようです。食べている間は患部を洗ったり器具で汚い部分をこそぎ落としたり、多少痛みを伴う処置でもそんなに神経質に気にせずやらせてくれます。 先ほども書きましたが、長期戦が予想されます。蹄はヒトの爪にあたるものですが、毎日地面に触れ、体重をかけるので摩耗して減っていきます。加えて、寒い時期は伸びるのが遅いため、傷が治り、さらに元に戻るには時間がかかります。それまで今のやり方に飽きないでほしいな…と願いながら毎日治療しています。

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VOL.53 すっきりしました

今年は5月に急に暑くなったと思ったら、6月7月と梅雨寒が続いていますが、季節は確実に移り変わっており、動物たちも冬毛から夏毛へと換毛しています。 冬毛と夏毛で色や模様がすっかり変わってしまうのはホンシュウジカ。くすんだ焦げ茶色から、オレンジがかった茶色の毛に木漏れ日を思わせる白い斑点模様へと変身しますが、どちらもその季節において森林では目立たない色合いです。 夢見ヶ崎動物公園にいる他の多くの動物たちの換毛は、ふわふわしたダウンコートが抜け、全体的にすっきりした印象になります。ホンドタヌキのげんまいはまさにその典型で、夏と冬では別の動物のようなシルエットです。 キツネザルたちは特に尾がスッキリ、細く見えます。レッサーパンダに至ってはみすぼらしく見えるほど尾が細くなります。 ヤギたちは木の柵や職員手作りの網に体をこすりつけ、抜け毛を自分で落とします。オスのヤギやマーコールは自分の角が届く範囲をわかっているようで、角の先端で背中を掻いていることもしばしばです。 色も体の大きさもあまり変わらないものの、顔周りで大きな変化があるのがロバで、冬毛の時だけ、立派な前髪が現れます。 冬の姿と比べてみると、ほかにもまだまだ発見があるかもしれませんね。

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VOL.50 ピックアップ動物

ニホンジカのうち、本州に生息する亜種です。 木漏れ日のような白い斑点模様の夏毛と、くすんだ褐色の冬毛を持ちます。お尻の周りの毛は白く、興奮すると逆立って、白いハート型にはっきり目立ちます。 オスの角は毎年生え変わります。春先に古いものが根元から落ち、産毛の生えたやわらかく、血管豊富な皮膚にくるまれた袋角が生えてきて、夏から秋にぐんぐん成長し、9月ごろ皮が乾燥して剥け、立派な角が姿を現します。秋、繁殖期を迎えたオスは木の幹などで角を研ぐ姿がよく見られます。角はどんどん鋭くなり、オスの気性も荒くなっていきます。野生と同様に、角を突き合せた力比べも始まりますが、動物園の限られた敷地内では負けたものが「消える」ほど遠くに行くことはできず、大けがや死亡事故につながることもあるため、 ちょうど良いタイミングで、角を根元だけ残してのこぎりで切ってしまう、「角切り」を実施しています。タイミングが早すぎれば出血し、遅ければシカのケガの危険が高まります。また、一度にやらないと、残ったシカが角を切られた他のシカの姿を見て自分より弱いと思い込み、暴君となって手が付けられなくなることもあります。 角を切ればシカ同士の闘いでの危険は減りますが、人間がまともに頭突きされればただでは済みません。目元にしわが寄り、言葉の通じない怖さを持った姿は、もし野生で出会っていたら覚悟を決めてあきらめるしかないなと思わせます。

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VOL.41 袋角(ふくろづの)成長中

ホンシュウジカのオスは毎年角が生え換わります。春先に古い角が根元から落ちると、すぐに新しい角が生え始めます。皮膚をかぶった「袋角」で、初夏から秋にかけてぐんぐん成長します。成長に必要なので、皮膚には血管が豊富なため、この時期に角を傷つけてしまうと出血してしまうので、袋角のオスは大人しくしています。秋、角の成長が終わると血流の止まった皮膚が破れて、硬くなった角が姿を表します。もう出血を恐れる必要はないので、木の幹で角の先を鋭くとぎ、オス同士の闘争が始まります。そして冬を越えると…の繰り返し。 オスの年齢が上がってくると枝分かれも増え、成長中とはいえ立派なものです。そして、生まれつきなのか、角が出てくる途中で傷がついたのが原因なのか、たまに変な形のものも。 数日見ないうちに角の形や長さが変わっている、というのはこの時期ならではです。

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