VOL.62 獣医の日記
動物園の動物病院には治療で一時的に来る動物だけでなく、入院している動物もいます。長期にわたって入院している個体は展示でお客さんの目に触れる機会はなくなりますが、職員にとってはむしろなじみ深い顔であり、存在感も大きくなっていきます。 先日、10年以上入院していた25歳のメスのフンボルトペンギンが死亡しました。もともと足の裏に趾瘤というこぶのようなものができ、悪化して骨が溶けてしまったことから足の指を切断する手術を行い、また、嘴の変形により他のペンギンのように泳ぎながら餌を取ることができなかったため、展示で暮らしていくことが難しい個体でした。 1羽だと元気がなくなってしまい、つがいのオスが付き添い入院していた時期もありました。餌は魚を手渡しで与えるのですが、時々職員を選ぶことがあり、普段よく世話をしているかどうか、治療などで嫌なことをされているかなど全く関係なく、この人からは食べる、あの人からは一切食べない…という基準が謎のこだわりを見せることもありました。そして、嘴の変形のため食べるのがとても下手なので、魚の大きさ、くわえさせる角度、タイミングなど、かかわった職員を散々悩ませ、工夫させてくれたのはよい思い出です。 動物園の役割は、お客さんから見えない部分の方に多く詰まっていると感じることが多々あります。動物の健康管理もそのひとつです。正解がわからないことも多い中、経験や過去の例を生かしつつ、やはり同じ個体はいないので悩みながらの試行錯誤を続けています。