VOL.66 獣医の日記
動物園動物はヒトを見慣れており、野生動物と比べればヒトに慣れてはいます。時々勘違いされるのですが、「慣れている」だけであって「懐いている」というわけではありません。動物種、年齢によって多少異なり、個体差もありますが、見かけただけでは逃げない、餌をねだる、ということはあっても、家畜種ではない動物がヒトに身を任せたりまったく警戒せず弱みを見せたりすることはかなり稀なケースです。 先日、急に群れから距離を置き始めたホンシュウジカが 1 頭いました。群れから離れるというのは、群れから追われかねない理由がある、すなわち体調不良のサインであることがしばしばあります。私たちもすぐその個体をマークし、検査や治療も始めました。が、数日たたないうちに残念ながら死亡してしまいました。子宮に膿がたまり、腎不全も起こしていました。死亡するほんの 30 分前にはしっかり立って餌のニオイを嗅ぐ仕草も見せており、あたかも急死したように見えますが、そこはヒトに弱みを見せない動物です。ギリギリまで不調を隠していた可能性も大いにあります。 相手は弱みを隠すものという前提で、日頃の細やかな観察と引っ掛かるものに敏感である感受性、それらを鍛えるためなんでもない時の動物たちの観察などが、簡単なようで一番難しく、重要なことを痛感させられます。